2026

09SEP11

金曜日

HISTORY STORY自然保護
モルジュの事務所の戸口へ鉢植えを持ってきた架空の女性の挿絵

1961年9月11日 ― WWFがモルジュに最初の事務所を開く

窓辺へ運ぶ鉢

1961年9月11日、WWFがスイスのモルジュに最初の事務所を開いた。遠い土地の自然を守る仕事が始まる戸口へ、町の女性が小さな鉢を運ぶ。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

鉢は、家を出たときより重く感じられた。クレールは両腕の位置を変え、上着に土がつかないように持ち直した。モルジュの通りはいつもどおりだった。買い物袋を提げる人も、窓辺を掃く人もいる。今日ここに世界の野生の生きものを守る団体の事務所が開くと聞いても、町そのものが変わるわけではなかった。

彼女が持ってきたのは、庭で分けた小さな草の鉢だった。珍しい花ではない。母が生きていたころから、庭の片隅で勝手に増えていたものだ。事務所に置く場所がなければ持ち帰ろう。そう決めて来たのに、入口の前では足が止まった。大きな仕事をする人たちに、土のついた鉢を差し出してよいのだろうか。

中から出てきた若い人が、重そうですね、と声をかけた。クレールは鉢を差し出しかけ、先に事情を説明した。「お祝いというほどでもないの。ただ、窓のそばに何かあったらと思って」。相手は両手で受け取り、置ける場所を探してみますと言った。その返事が大げさでなかったので、ようやく肩の力が抜けた。

戸口から見えたのは、机と椅子と、まだ落ち着く場所の決まらない荷物だった。遠い国の森や動物のために働く場所も、始まりはこんなふうなのかと思った。クレールは勝手に、壁いっぱいの地図や、絶え間なく鳴る電話を想像していた。だがまず必要なのは、腰を下ろし、誰かに手紙を書く机なのかもしれない。

自分には遠い土地へ行くお金も、生きものを調べる知識もない。新聞で森が失われる話を読めば心配になるが、次のページをめくれば夕食の支度を思い出す。そういう自分の小ささを、今日は少し恥じていた。鉢の葉についた枯れた一枚を取ろうとすると、受け取った人が待ってくれた。薄い葉は指の間で簡単に折れた。

「水をやりすぎないでくださいね」。ようやく、自分の知っていることが口から出た。土の表面だけで決めず、少し乾いたら水をやること。日がまったく当たらない場所は避けること。話しながら、初対面の人に言いすぎたかと気になったが、その人は土を見てうなずいていた。分かる範囲の世話なら、彼女にも説明できた。

帰り道、両腕が軽かった。湖の方から風が来て、空いた手を上着のポケットへ入れた。鉢を渡しただけで何かを救ったとは思わない。遠い森には、ここから見えない難しさがあるだろう。それでも、知らない人たちが町の一室でその難しさに取りかかっている。その入口へ、自分も一度は行ったのだ。

家に戻ると、庭には鉢を抜いた丸い跡が残っていた。クレールは土をならし、少し離れた草へ水をやった。明日も同じ世話をする。その向こうで始まった仕事にも、明日があり、明後日がある。今日だけを立派にするのでなく、続く日のことを考えながら、彼女は水差しを傾けた。

史実として確認できる部分

  • WWFの最初の事務所は、1961年9月11日にスイスのモルジュで開かれた。[1]
  • WWFは1961年に生まれ、野生生物と自然の保護活動を支える資金調達を出発点とした。[2]

参考資料・出典