2026

09SEP13

日曜日

HISTORY STORY言葉・権利
ニューヨークの広場で知らせを待つ架空の女性たちの挿絵

2007年9月13日 ― 国連が先住民族の権利に関する宣言を採択

名前を省略しない日

2007年9月13日、国連総会が「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を採択した。ニューヨークで知らせを待つ女性が、故郷の地名と祖母の言葉を思い返す。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

故郷の地名を、マイアは二度言い直した。相手を責めるつもりはなかった。初めて聞く音なのだ。ニューヨークの道端で行き先を尋ねられたときも、宿で名前を告げたときも、そんなふうに考えることにしていた。ただ何度も続くと、短い別の呼び方で済ませたくなる日があった。

今日は国連の近くで、知り合いと落ち合う約束をしていた。先住民族の権利についての宣言が採択されるかもしれない。詳しい知らせを待つために来たのであって、彼女が会議で発言するわけではない。建物を見上げると、窓がいくつも光っていた。あの中にいる人たちは、自分たちの言葉で自分の名前を言えるだろうか。

祖母は昔の話をする途中で、よくひとつの言葉を繰り返した。学校で習った言葉へ置き換えてくれと頼むと、似ているけれど同じではない、と答えた。子どものマイアには面倒だった。今はその違いを尋ね直したいのに、祖母はもういない。録音しておけばよかったという後悔も、何度もしてしまえば同じ形に固まってしまう。

約束の相手が来て、二人は建物の外で待った。周囲には、ここへ来た理由の分からない人も大勢いる。マイアは誰かの服装だけで仲間だと決めつけないようにした。自分だって、今日の上着を見ただけでは何も分からないだろう。大切なものを身につけて見せる日もあれば、鞄の内側にしまって歩く日もある。

採択された、という知らせが届いたとき、知り合いは小さく息を吐いた。マイアも笑ったが、何を言えばよいのか分からなかった。故郷で困っている人の暮らしが、今この瞬間に変わるわけではない。返ってこないものもある。けれど、ないことにされてきた願いが、国々の集まる場所で言葉になった。その重さは確かに感じた。

二人は温かい飲みものを買った。マイアは紙のカップを両手で包み、祖母の声を思い出そうとした。単語の意味より先に、話し終えたあとの沈黙が浮かんだ。こちらが理解するまで待っていたのだと、今になって思う。分からない言葉を急いで言い換えることと、分かろうとして待つことは、同じ親切ではなかった。

帰り際、知り合いが故郷の地名の発音をもう一度尋ねた。マイアはゆっくり言った。相手が真似をし、少し違った。そこで笑って終わりにせず、唇の動きを見せながら繰り返した。人波は横を流れ、信号が一度変わった。二度目には、ずっと近い音になった。

宿に戻ったら、家族に電話しよう。採択の知らせはもう届いているかもしれない。それでも今日自分が聞いたことを、自分の声で伝えたかった。祖母の言葉を全部覚えているわけではない。残っているものから始めればいい。マイアは別れの挨拶を、今度は省略しなかった。

史実として確認できる部分

  • 国連総会は2007年9月13日、先住民族の権利に関する宣言を採択した。[1・2]
  • 宣言は先住民族の文化、言語、自己決定などに関する権利を示している。[1・2]

参考資料・出典