
1997年9月18日 ― 対人地雷禁止条約がオスロで採択
一脚ぶんの通り道
1997年9月18日、対人地雷禁止条約の文面がオスロで採択された。会議を手伝う青年が、一脚の椅子を動かし、誰かが通れる幅を残す。
ここからは、架空の人物による歴史短編です。
椅子を一脚ずらしただけで、通り道はずいぶん広くなった。ヨーナスは入口に立ち、もう一度眺めた。オスロの会議場で手伝いをしていると、並んでいるものをまっすぐにしたくなる。けれど今日は、きれいな列を少し崩す方がよかった。松葉づえの人が通るには、その方が楽だった。
対人地雷を禁止する条約の話し合いが進んでいた。戦いが終わっても地面に残り、人を傷つけるものがある。ヨーナスは新聞で知っていたが、説明を読んだだけで知り尽くした顔はしたくなかった。会場へ来る人には、それぞれの経験がある。足の運びだけで、その人の人生を決めつけることはできない。
廊下で会った客に、手を貸しましょうかと尋ねた。相手はまず扉を押さえてほしいと言った。ヨーナスは慌てて荷物へ伸ばしかけた手を引っ込め、扉を開けた。助けるつもりでも、必要なことを聞かずに始めれば邪魔になる。客は自分の速さで通り、短く礼を言った。
昼ごろ、椅子を元へ戻そうとする別の係員を呼び止めた。事情を説明すると、係員は入口から歩いて確かめてくれた。二人で一脚ずつ位置を直す。大げさな作業ではないが、一人の思いつきのままにしておくと、次の人には理由が分からない。ヨーナスは変更を引き継ぎの紙にも書いた。
条約が採択されたと聞いたとき、周りに安堵が広がった。ヨーナスも胸が軽くなった。だが会場の外にある地雷が、拍手と一緒に消えるわけではない。条約の文面が決まることと、地面が安全になることの間には、まだ長い仕事がある。そのことを考えると、喜んでよいのか一瞬迷った。
さっきの客が廊下を戻ってきた。ヨーナスが扉へ動くと、相手は今度、目で合図をした。彼は同じように扉を押さえた。表情は疲れていたが、静かに笑っていた。ヨーナスは、その笑顔を自分の迷いへの答えとして勝手に使わないようにした。ただ、この人が帰る通り道を空けておく。それなら今すぐできる。
片づけが始まると、部屋は急に普通の場所になった。空いた水差し、置き忘れた上着、椅子の脚が床をこする音。大切な日にも最後には掃除がいる。ヨーナスは席の間を回り、落とし物をまとめた。列を見て、一脚ずらしたままにしておく。まだ誰かが戻ってくるかもしれなかった。
外の空気を吸うと、長く室内にいたことが分かった。家族に今日のことを聞かれたら、条約が採択されたと話すだろう。自分の仕事については、椅子と扉の話になる。それを小さすぎる話だとは思わなかった。誰かが通れる幅を残すことから、今日の彼の一日は始まり、終わった。
史実として確認できる部分
- 対人地雷の使用、貯蔵、生産、移譲の禁止と廃棄に関する条約は、1997年9月18日にオスロで採択された。[1・2]
- 署名のための開放は同年12月、発効は1999年3月1日であり、採択とは別の段階である。[1・2]