2026

09SEP19

土曜日

HISTORY STORY暮らし・参政権
1893年のウェリントンを想定し、荷車を片づける架空の女性の挿絵

1893年9月19日 ― ニュージーランドで女性の国政選挙権が法律に

食卓から続く声

1893年9月19日、ニュージーランドで女性に国政選挙での投票を認める法律が成立した。ウェリントンの市場で働く女性が、次に自分のする手続きを考える。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

売れ残った野菜を荷車に戻しながら、ベスは空を見た。ウェリントンの風は、荷物の軽さを遠慮なく試してくる。布をかけ、端を押さえる石を探した。今日は片づけが少し早い。近くの店で、女性が国の選挙で投票できるようになったと聞いたからだった。

本当なのかと、彼女は二度尋ねた。法案が通るらしいという話は聞いていた。署名を集める人の話も知っている。だが、なりそうだということと、なったということの間には幅がある。客の前で値を決めるときと同じで、最後の返事を聞くまでは荷物を渡せない気がした。

今日、総督が法律に署名したのだという。ベスはその言葉を頭の中で繰り返した。帰ったら何をすればよいのだろう。投票の日は今日ではない。名簿に載るための手続きも調べなければならない。権利を得たと聞いて、まず用事が増えると思った自分が少しおかしくなり、荷車の取っ手を握ったまま笑った。

家では弟が、政治家の話など面倒だと言うことがあった。ベスにも、演説の長さにうんざりすることはある。それでも、聞かなくてもよいと自分で決めることと、初めから数に入れてもらえないことは違う。野菜の仕入れを相談するとき、自分だけ部屋の外に立たされたら困る。その程度の言葉なら、弟にも伝えられそうだった。

坂へ差しかかり、荷車を押す腕に力を入れた。近所の女性が横に来て、後ろを押してくれた。二人は例の話をした。女性は誰へ投票するかまだ分からないと言った。ベスも同じだった。分からないと口にしてから、これから考えるのだと気づいた。答えが決まっている人だけの権利ではないのだ。

坂の上で礼を言い、二人は別れた。港の方を振り返ると、風が上着の袖を膨らませた。ここで暮らす女性がみな同じ考えなわけではない。自分と隣人ですら、野菜の値段について意見が違う。ひとまとめにされた声ではなく、それぞれに違うままで数えられる。それは思っていたより、大きくて厄介なことだった。

帰宅すると、食事の支度を待つものがいつもどおり台所にあった。法律が変わっても、鍋が勝手に火へかかるわけではない。ベスは弟に荷車を片づけるよう頼み、自分は手を洗った。食卓では、明日、登録のことを聞きに行くと言おう。相談ではなく、自分の予定として。

窓の外で布がはためいた。ベスは留め具を直し、食卓の椅子を一つ引いた。特別な椅子ではない。いつも腰を下ろしていた、自分の場所だった。ただ今夜は、そこから話し始める声が、家の壁の外にも続いていくような気がした。

史実として確認できる部分

  • 1893年9月19日、総督グラスゴー卿が選挙法に署名し、女性の国政選挙での投票権が認められた。[1・2]
  • ニュージーランドは女性の国政選挙権を認めた最初の自治国とされる。1893年の選挙で女性が初めて投票した。[1・2]

参考資料・出典