2026

09SEP23

水曜日

HISTORY STORY天文学
暗い天文台の戸口から夜空を見る架空の用務員の挿絵

1846年9月23日 ― ベルリン天文台で海王星を発見

同じ空の、新しい数

1846年9月23日、ベルリンでガレとダレストが、ルヴェリエの計算を手掛かりに海王星を見いだした。天文台の架空の用務員は、変わらない夜空を見上げる。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

夜の仕事で困るのは、昼に動かされた物だった。フリッツは扉の脇へ置かれた椅子をよけ、桶を通した。ベルリンの天文台では、上を見る人のために、下にいる者が床を片づける。そう言うと妻は笑うが、足元につまずいては星も見られないのだから、間違いではなかった。

今夜は学者たちの様子がいつもと違っていた。遠くから届いた計算に従って、空のある場所を探しているらしい。フリッツには計算の中身は分からない。まだ見えていない物の場所を、数字で先に知るという説明だけで十分に不思議だった。落とした鍵の場所も、誰かがそうやって教えてくれればいいのにと思った。

ガレという学者と、若いダレストが観測をしている。フリッツは必要な所へ余分な明かりを持ち込まないよう、手前で立ち止まった。暗い中では、役に立つつもりの灯りが邪魔になる。仕事ごとに都合のよい光が違うことは、長くここにいて覚えた。

空の地図にないものを探している、と聞いた。地図にないなら見つけやすいだろうと初めは思ったが、夜空を見上げてすぐ考えを変えた。どれがどれかも、自分には満足に分からない。知らない物を見つけるには、先に知っている物がたくさん必要なのだろう。フリッツは扉の外でしばらく空を眺めた。

部屋の方から声がした。大騒ぎではなかったが、話す速さが変わっていた。何かが見つかったらしい。彼は近づきすぎず、通り道を空けた。自分が発見したような気持ちになりたくはなかった。それでも、長い夜が急に短くなったように感じた。桶の水を替えるのも忘れかけた。

新しい惑星かもしれない、と教えられて、フリッツはもう一度外を見た。大きく目立つ物が増えているわけではない。さっきと同じ空だった。見つかったものは、見つかる前からそこにあったのだ。そんな当然のことが、今夜はうまく頭へ収まらなかった。人が知らない間も、世界は自分の仕事を続けている。

家へ帰ったら妻に話そうと思ったが、何を見たと説明すればよいだろう。彼自身が望遠鏡で確かめたわけではない。学者たちの声が変わったこと。自分の知らない計算が、遠い空へ届いたらしいこと。それなら話せる。見ていない星の色を、勝手に付け足す必要はなかった。

夜の終わりに、椅子を元の位置へ戻した。桶を持ち上げ、最後に窓を見た。昨日より惑星が増えたのではなく、人が数えられるものが一つ増えたのだろう。フリッツはそう言えば妻にも伝わるかと考えた。鍵はいつものポケットにあった。それを確かめて、彼は足元を見ながら階段を降りた。

史実として確認できる部分

  • 海王星は1846年9月23日、ベルリン天文台で惑星として発見された。[1・2]
  • ガレとダレストの観測には、ルヴェリエによる位置の予測が手掛かりとなった。[1・2]

参考資料・出典