2026

09SEP26

土曜日

HISTORY STORY音楽
レコード店で試聴する架空の父と娘の挿絵

1969年9月26日 ― 『アビイ・ロード』がイギリスで発売

父と針を落とす夜

1969年9月26日、ビートルズのアルバム『アビイ・ロード』がイギリスで発売された。父とレコード店へ来た少女が、相手の感想を先回りせずに音楽を聴いてみる。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

父とレコード店へ入ると、スーザンは歩く速さを落とした。父を待つためというより、何を言われるか身構えたのだ。ロンドンで今日発売されたビートルズの『アビイ・ロード』を見たいと話したら、父が一緒に来た。いつものようにうるさい音だと言われるのなら、家で聞く方がまだよかった。

店内には新しい盤を目当てに来た人がいた。スーザンは父から少し離れ、棚を見た。友人ならここであれこれ話せるのに、父にはどこから説明すればよいのか分からない。四人の名前を知っているかさえ聞きにくかった。知らないと言われたらがっかりし、知っていると言われても意外な顔をしてしまいそうだった。

父は値段を確かめ、次に盤の扱いを店員へ尋ねた。スーザンはそれくらい知っていると思ったが、父が買うと決めたわけではないので黙った。レコードは曲だけでできているのではない。傷をつけずに運び、針を落とし、裏返す手が要る。父が気にするのは、そういう所だった。

試聴できる場所が空いた。スーザンが先に聴き、父へ替わる。父は目を閉じなかった。何かを点検するような顔で聴いているので、彼女は少し腹が立った。だが自分も、父の顔から感想を先回りして読み取ろうとしていた。曲が終わる前に、嫌いだという返事を用意して待っていたのかもしれなかった。

父は耳を空けると、さっきの途中の音は何だと尋ねた。スーザンにもすぐには分からなかった。知ったふりをするか迷い、分からないと答えた。父は、そうか、と言っただけだった。そこで二人とも店員の方を見た。説明を聞きながら、知らないものを同じ向きで探す時間が、短く生まれた。

父がこの盤を好きになるかどうかは、まだ分からない。スーザンも今日初めて聴く部分がある。誰かを説得する前に、自分の耳で確かめたい。そう思うと、父を店へ連れてきたことが急に邪魔ではなくなった。相手の感想を借りずに聴くのは、友人と来たときにも必要なことだった。

帰りに、彼女は貯めていたお金で一枚買った。父が持とうかと言ったが、自分で抱えた。包みは薄く、角が上着へ当たった。父はあの曲はもう一度聴いてもいいと言った。どれ、と尋ねると、まだ題名が分からないと答えた。スーザンは笑い、家で確かめればいいと言った。

二人の歩く速さがそろった。音楽の好みが同じになったわけではない。父が明日から彼女の友人のように話すこともないだろう。それでも今夜は、針を落とす前に追い出さなくてよさそうだった。スーザンは包みを持ち直した。新しい盤には、父と黙って聴く時間も一緒に入っていた。

史実として確認できる部分

  • ビートルズの『アビイ・ロード』は1969年9月26日にイギリスで発売された。[1・2]
  • 最後に録音したアルバムとして説明されるが、発売順では『レット・イット・ビー』が後に出ており、単純に最後の発売盤とはいえない。[1]

参考資料・出典