2026

10OCT04

日曜日

HISTORY STORY宇宙・通信
1957年のモスクワで真空管式受信機に耳を傾ける父親を想像した挿絵

1957年10月4日 ― スプートニク1号が打ち上げられる

そこにある、と知らせる音

1957年10月4日(UTC)、ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げました。物語の舞台は同日のモスクワ。無線が趣味の父と娘が、受信機の前で過ごす夜を描きます。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

雑音ばかり拾う夜だった。ニコライは受信機のつまみから指を離し、机の下で眠りかけていた娘を見た。「寝るなら寝台へ」。娘は首を振った。父親がこんな時間まで起きているのに、自分だけ眠るのは損だと思っているらしかった。

モスクワの部屋は狭かった。無線が趣味の父親の机が、ますます狭くしていると妻には言われていた。ニコライも否定はできない。古い部品を捨てられず、何かに使えると箱へ戻す。その箱を少しずつ脇へ押して、娘はあごを机の縁に乗せた。今日も外国の言葉を聞くの、と尋ねた。

宇宙に人工の衛星を送ったという知らせに、ニコライはまだ半分、現実味を持てずにいた。地上から離れた物が、落ちてくる代わりに地球を回り続ける。その理屈は理解していた。それでも、隣の屋根に張った線が、その遠い物からの音を受けるかもしれないと思うと、道具を扱う手つきまで変わってしまう。

やがて雑音の奥から、短い、規則的な音が聞こえた。ニコライは身を乗り出した。待っていた信号なのか。似た別の音ではないか。すぐに答えを決めたくなったが、もう少し聞いた。娘が口を開いたので、人さし指を唇に当てた。娘は腹を立てず、父親と同じように耳を傾けた。

「何て言ってるの」。ニコライは笑いかけて、やめた。何も言っていない、と答えるのは簡単だった。人の声でも、文章でもない。けれど、誰かが作り、確かめ、送り出した物の信号なら、その向こうに何もないわけではない。「そこにある、と知らせているんだと思う」。自分でも頼りない説明だった。

娘は窓へ行った。空を見上げ、どれ、と聞く。ニコライはわからないと言った。窓から見えた点を、あれだと指すことはできなかった。部屋へ戻ると音は弱くなり、やがて雑音に埋もれた。娘は残念そうだったが、ニコライは受信機の前を空けて座らせた。もう一度聞こえるとは約束しなかった。

椅子が高くて、娘の足が床につかなかった。ニコライは自分の部品箱を足元へ置いた。捨てろと言われた箱が初めて役に立った気がして、少しおかしかった。娘はつまみに触れず、受信機の顔をじっと見ている。いつもなら退屈する雑音を、今夜は二人とも止めようとしなかった。

妻が様子を見に来たとき、娘は椅子で眠っていた。ニコライは音を絞った。何か聞けたの、と小声で尋ねられ、聞けたと思う、と答えた。断言しない答えを、今夜は恥ずかしいと思わなかった。娘を抱き上げると、眠ったまま指が動いた。つまみを回すような小さな動きだった。

史実として確認できる部分

  • ソ連は1957年10月4日、世界初の人工衛星スプートニク1号を地球周回軌道へ打ち上げた。[1・2]
  • 衛星は電波を送信した。短編の受信者と受信場面は架空である。[2]
  • 日付は一般に用いられるUTC基準の10月4日。打ち上げ地点の現地時刻では翌5日となるため、物語はモスクワに設定した。[3]

参考資料・出典