
1979年10月17日 ― マザー・テレサへのノーベル平和賞が発表される
布の真ん中を確かめる
1979年10月17日、マザー・テレサのノーベル平和賞受賞が発表されました。短編はカルカッタの架空の手伝い役を通して、大きな知らせのあとも続く日々の仕事を描きます。
ここからは、架空の人物による歴史短編です。
白い布を二人で畳むとき、引く力が違うと角が合わない。アニタは向かいの女の手を見て、少し力を抜いた。カルカッタの午後、洗った布を片付けているところへ、マザー・テレサがノーベル平和賞に選ばれたという知らせが入ってきた。
周りの人が顔を上げた。アニタも手を止め、賞の名前を口の中で繰り返した。知ってはいたが、身近な仕事と結びつけて考えたことはなかった。遠い場所で決まったことが、今この中庭へ届いている。誰かが、おめでたい、と言い、誰かが次の仕事を呼んだ。
アニタはここへ毎日来るわけではなかった。家の用事を済ませ、来られる日に手伝っている。初めのころは、役に立つことをしたいと思うあまり、自分から仕事を見つけては手を出した。そのせいで、必要な場所にあった物を勝手に片付けてしまったことがある。礼を言われたくて来たのではないつもりだったが、注意された日は帰り道が長かった。
向かいの女が、そこ、まだ湿っている、と言った。アニタは畳みかけた布を広げた。端は乾いていても、重なっていた部分は少し冷たかった。今、もう一度干せばいい。大きな知らせを聞いた直後なのに、自分が確かめるべきことは相変わらず布の湿り気だった。
女は中庭の空を見て、まだ時間がある、と言った。アニタは布を持って立った。褒められる出来事があれば、日々の仕事も少し特別に見える気がしていた。けれど、乾いていないものは乾いていない。急いで畳めば、あとで使う人が困る。知らせに浮き立つ気持ちと、自分の手元は、分けておかなければならなかった。
別の人が入ってきて、同じ知らせを話した。アニタは、聞きました、と笑った。その人は何か手伝えるかと尋ねた。いつもの自分なら、先に説明をたくさんしていたかもしれない。今日は布の片方を渡した。「ここを持ってもらえますか」。相手はうなずき、二人で広げた。
布越しに人の影が見えた。誰かが通り、足を止め、また歩いていく。賞の理由を説明する言葉には、多くの人がまとめて含まれる。それでも、布を使うのは一人ずつだ。アニタは名を知らない人のことを、知らないまま大切に扱うことができるだろうか。きれいに畳むだけでは足りないが、雑にしてよい理由もなかった。
帰る前に、干し直した布を確かめた。今度は端も真ん中も同じ手触りだった。向かいの女を呼び、二人で角を合わせた。明日も来られるかと聞かれ、まだわからない、と答えた。できない約束はしなかった。今日引き受けた分を終え、布の山を手のひらでそっとならしてから、アニタは自分の家へ帰った。
史実として確認できる部分
- 1979年のノーベル平和賞はマザー・テレサに授与された。[1]
- 10月17日付の米大統領の祝賀文でも受賞が確認できる。10月17日は受賞発表の日として扱う。[2]
- 授賞式・受諾のスピーチは12月。10月に授賞式へ出席したとは描かない。[3]