2026

10OCT20

火曜日

HISTORY STORY建築・音楽
1973年の港からオペラハウスを望む清掃係を想像した挿絵

1973年10月20日 ― シドニー・オペラハウスが正式開館

これから行く場所

1973年10月20日、シドニー・オペラハウスが正式に開館しました。港で働く架空の清掃係が、見慣れた建物を「自分も行く場所」として見直す短編です。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

手すりを拭いたそばから、人が手を置いた。エディは少し離れて待ち、空いたところを拭いた。シドニーの港を渡る船では、今日は窓の外を向く人が多い。白い屋根が水の向こうに見えるたび、誰かが連れの肩をたたいた。

オペラハウスが正式に開く日だった。エディは建っていく途中の姿を、仕事の行き帰りに何度も見てきた。昨日までなかったものが一晩で現れたわけではない。それでも、今日初めて見る人の声を聞くと、自分も初めて見直している気がした。

大きな建物について、町ではさまざまな話がされてきた。エディも聞いた話を家で繰り返したことがある。だが、いくら説明しても屋根の形を言葉にするのは難しかった。娘には、一度見ればわかる、と言った。連れていく約束は、仕事が落ち着いたらと先へ延ばしていた。

手すりのそばに立つ子供が、あれは船なの、と聞いた。父親が違うと答え、音楽を聴く場所だと説明した。子供は少し考え、船でも音楽は聴けると言った。父親が困った顔をしたので、エディは笑いそうになって布を絞った。確かにそうだ。建物の特別さを知るには、名前だけでは足りなかった。

客が通り過ぎたあと、エディは同じ場所に立った。屋根の白さは、近くの波の白さとは違って見えた。動かないものが、風を受けているような形をしている。仕事で毎日ここを通るからといって、毎日見ていたわけではない。見慣れることと、よく見ることの違いに、今さら気づいた。

同僚が、いつか中へ行くのか、と聞いた。エディは、音楽には詳しくない、と答えた。詳しくなってから行くのかと聞き返され、返事に困った。娘を連れていかない理由も、忙しいことだけではなかったのかもしれない。何を知っていればよいか、どう振る舞えばよいか、その心配を先にしていた。

船が揺れ、手すりにつかまった。さっき拭いた場所だった。布を持つ自分も、眺める客も、揺れれば同じところに手を伸ばす。エディは同僚に、まず娘と外から見に行く、と言った。中へ入ることは、そのあとに考えればいい。何をするにも、わかっている人になってから始める必要はなかった。

次の客が乗ってくる前に、通り道を確かめた。今日の開館を、自分は手すりの感触と一緒に覚えるだろう。家へ帰ったら娘に、いつかではなく、休みの日の予定を聞こう。エディは布を畳み、もう一度水の向こうを見た。長く知っていた建物が、これから行く場所に変わっていた。

史実として確認できる部分

  • シドニー・オペラハウスの正式開館は1973年10月20日。エリザベス2世が開館式に参加した。[1・2]
  • 特徴的な屋根を持つ建築はヨーン・ウツソンの設計から生まれた。[2]

参考資料・出典