2026

10OCT23

金曜日

HISTORY STORY航空・ものづくり
1906年のバガテルで草地の車輪跡を見つめる架空の見物人の挿絵

1906年10月23日 ― サントス・デュモンが14-bisで公開飛行

跡のなくなった場所

1906年10月23日、ブラジルの航空家サントス・デュモンがパリで14-bisを飛ばしました。短編は、空へ上がった機体ではなく、地面に残る車輪の跡から驚きを語ります。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

車輪の跡は途中まで続き、そこで途切れていた。アンリはしゃがみ、草の上に指を置いた。ほんの少し前まで、人も機械もそこを通っていた。地面を離れたことを知るには、空を見るだけでなく、残されなかった跡を見る方法もあるのだと思った。

バガテルの広場へ来る前、アンリは店で仲間に笑われた。機械が跳ねるのを見に行くのか、と言われたのだ。修理をする仕事では、機械は地面にしっかりついている方がよかった。揺れれば締め、浮けば押さえる。わざわざ地面から離そうとする人の気持ちを、アンリは知りたかった。

ブラジルから来たサントス・デュモンの機械は、鳥の形に似せた玩具とは違って見えた。布や骨組みが、仕事場で扱う物の延長にある。それが、自分の知っている道具とはまるで違う動きをしようとしている。アンリは遠くから、風の向きより先に接ぎ目を探した。

動き始めると、そんな見方をしていられなくなった。音が近づき、人が身を乗り出す。機械が地面から離れたとき、アンリは思わず立ち上がった。高いところへ消えていくのではない。地面のすぐ上を進む。そのわずかな隔たりが、今まで見た大きな建物より遠く感じられた。

すぐそばの男が距離を言った。別の男は違う数字を口にした。アンリは、自分で測っていない数字を覚えるのをやめた。飛んだことは見た。どれほど飛んだかは、確かめた人の記録を待てばよい。自分の驚きを大きくするために、距離まで長くする必要はなかった。

人が動いたあと、アンリは車輪の跡へ戻った。草はところどころ寝ていた。店へ帰れば、仲間は何を見たか聞くだろう。大きな言葉で言えば笑われ、小さく言えば何も起きなかったように聞こえる。アンリは、跡がなくなった場所を見た、と話そうと思った。それなら、自分が確かめたことだった。

立ち上がると、指先に土がついていた。服で拭きそうになり、布を出した。飛行機を見た日にも、汚れた手を拭く習慣は変わらない。けれど、機械は地面にあるべきだという考えは、少し変わっていた。これから何ができるかを、知っている仕事だけで決めない方がよいのかもしれなかった。

店へ戻ると、直しかけの品物が待っていた。仲間が、飛んだか、と聞いた。アンリはうなずいた。それだけでは足りず、両手の間を少し空けた。「地面との間に、これまでなかった隙間ができた」。仲間は笑わず、続きを待った。アンリは布を置き、今日初めて、見てきたことを最初から話し始めた。

史実として確認できる部分

  • 1906年10月23日、サントス・デュモンはパリのバガテルで14-bisを飛ばし、約60メートルを進んだ。[1]
  • 11月12日の約220メートルの飛行とは別の実施日である。[2]
  • 飛行の『世界初』には条件の違いがあるため、本作では世界初の飛行機飛行と断定しない。

参考資料・出典