
1275年10月27日 ― アムステルダムに関わる通行税免除の特権状
川へ届く一行
1275年10月27日、フロリス5世が、アムステル川の堤のそばの住民に通行税免除の特権を認めました。現存文書にアムステルダムの名が現れる最古の例です。物語は発給地レイデンの架空の書き手から描きます。
ここからは、架空の人物による歴史短編です。
一つの地名を写すために、ピーテルは見本へ顔を近づけた。よく知っている名だと思ったときほど、文字を落とす。レイデンで書き物を手伝う若者にとって、今日はその注意を何度も思い出す日だった。アムステル川の堤のそばに住む人々に関わる文書を扱っていた。
伯フロリス五世が、その人々の荷に通行税を課さない特権を認めるのだという。ピーテルは荷を運ぶ仕事をしたことがない。だが、叔父が商いの帰りに、どこで何を払ったか指を折って数えるのを聞いてきた。文書の中の短い言葉が、川を行く人には持ち金の重さになる。
写しかけた一行で、筆が止まった。自分が書いているのは、川の名なのか、堤の名なのか、そこに暮らす人の名なのか。全部が近く重なっていて、離して考えるのが難しい。ピーテルは勝手に言い換えず、もう一度見本を確かめた。わかりやすくしようとして、別のことを書いてしまう場合もある。
年上の書き手が肩越しにのぞいた。ピーテルは誤りを指摘される前から背中を固くした。だが言われたのは、急がなくてよい、ということだった。待っている人がいるのに、と答えると、書き直す方が遅い、と返された。その人は机を離れず、ピーテルが一行を書き終えるまで見ていた。
昼にパンを食べながら、ピーテルは叔父を思い出した。税が減れば、叔父は喜ぶだろうか。叔父がどこに住み、どこを通るかで違う。すべての人が、どこでも払わなくてよいという話ではない。よい知らせほど、大きくして伝えたくなる。次に会ったら、先にどの道を通っているか聞こうと思った。
午後、乾いた文字を見直した。書いている最中には気づかなかった間隔の広さが目につく。きれいに見せることより、違う字に読まれないことが大切だった。荷を止められた人が、この文字を頼りに説明する場面を想像した。その場に自分はいない。だからこそ、今ここで確かめるしかなかった。
外の人声が少なくなったころ、ピーテルは筆を置いた。文書に記された集落を、自分の足で見たことはまだない。いつか訪ねても、今日の仕事をしたと名乗る必要はないだろう。知らない人が知らない場所で困らずに済む。そのために字を書くことがあるのだと、ようやく仕事の形が見えた気がした。
年上の書き手に紙を渡すと、相手は黙って読み始めた。ピーテルはその沈黙を急がせなかった。明日の自分が読んでも、遠くの人が読んでも、同じことが伝わってほしい。川を行く荷には触れられないが、この一行なら、まだ自分の目でもう一度確かめることができた。
史実として確認できる部分
- 特権状は1275年10月27日にレイデンで作成された。アムステルダムの名が現れる最古の現存文書とされる。[1・2]
- 対象はアムステルの堤のそばの住民で、フロリス5世の領内の通行税免除を定めた。全地域・全住民の免税ではない。[1・2]
- この日を集落に最初の人が住んだ日や、近代的な市の建設日とは説明しない。