2026

10OCT30

金曜日

HISTORY STORY放送・情報
1938年、静かな通りを背にラジオを聞く架空の母子の挿絵

1938年10月30日 ― ラジオ劇『宇宙戦争』が放送される

窓の外は静かだった

1938年10月30日、オーソン・ウェルズらによるラジオ劇『宇宙戦争』が放送されました。「全米が大混乱した」という単純化を避け、途中から聞いた架空の母親の一夜を描きます。

ここからは、架空の人物による歴史短編です。

ラジオをつけたとき、話はもう途中だった。ルースは夕食の片付けをしながら、知らない地名を聞いた。次に聞こえた声の切迫した調子に、皿を置く手が止まった。何かが起きている。そう思うまでに、言葉のすべてを理解する必要はなかった。

ニュージャージーの家の窓は閉まっていた。息子が床で遊んでいる。ルースが受信機へ近づくと、息子も顔を上げた。「何?」。ルースは、ちょっと待って、と答えた。知らないまま、わかった顔で説明したくなかったが、自分の声が固くなったことはわかった。

放送は本当の報道のように聞こえた。途中から聞いたため、何の番組なのかわからない。ルースは窓の外を見た。通りは静かで、向かいの家に明かりがついている。見える範囲が静かだから、遠くも安全だとは言えない。それでも、目の前の景色と耳から来る話が、まるで別の夜に属していた。

息子は遊びをやめ、母のそばへ来た。ルースはその肩に手を置いた。急いで何かをするべきなのか。誰かへ知らせるべきなのか。考えるほど、放送の声より自分の想像の方が大きくなった。言葉を聞き落とすたびに、ひどいことが起きたのではと、空いたところを埋めそうになった。

「本当のこと?」。息子に聞かれて、ルースは、まだわからない、と答えた。大人なのにわからないことを認めるのは、思ったより心細かった。受信機の前に座り、もう少し聞くことにした。途中の一部分だけをつかんで、隣の家へ同じ恐怖を運ぶ前に、確かめられることがあるはずだった。

やがて、劇の放送なのだとわかる説明が耳に入った。ルースはすぐ笑えなかった。体の緊張が、頭の理解に追いつかない。息子が、作り話なの、ともう一度尋ねたので、そう、と答えた。自分が聞いたことと、途中で想像したことを分けて話した。声が怖かったから、本当だと思いかけたとも言った。

息子は、でも窓の外には何もいない、と言った。ルースはうなずいた。自分も見た景色だった。見ても安心できなかったことを説明すると、息子は少し考えてから、もう遊んでいい、と聞いた。いいよ、と答えたとき、ようやく普段の声が戻った。

流しには洗いかけの皿が残っていた。水は冷めている。ルースは袖をまくり直し、受信機の音を少し下げた。今夜、どれほどの人が自分と同じように驚いたのかは知らない。誰もが逃げた夜だったなどと、あとで話すつもりはなかった。一軒の家で、一人の母親が途中から聞き、最後まで確かめた。それが、自分の知っている今夜だった。

史実として確認できる部分

  • 1938年10月30日、CBSの番組でH・G・ウェルズの小説をもとにしたラジオ劇『宇宙戦争』が放送された。[1・2]
  • 番組の一部は速報のような形式で演出されたが、フィクションの劇だった。[1・2]
  • 誤解した聴取者はいた一方、『全米規模の集団パニック』という後年の説明は誇張が指摘されている。被害や逃走人数を本作では断定しない。[1・2]

参考資料・出典