
1956年11月1日 ― ケーララ州が成立
もう二口
1956年11月1日、インドの州再編によりケーララ州が成立しました。新しい州の知らせが通りを行き交う日、南インドの母親が祖母の席を食卓に用意します。
ここからは、架空の人物による歴史短編です。
ラリタは米の鍋のふたを持ち上げた。湯気の向こうで、娘が大きなバナナの葉を一枚、二枚と並べている。端をそろえていた小さな手が止まった。
「おばあちゃんのも、ここでいい?」
いつもなら祖母は先に食べた。歯が弱く、座っていると膝も痛む。家族がそろうころには奥の部屋で横になっていた。その日も娘は、祖母の葉だけを台所へ運ぼうとしていた。
通りから男たちの声がした。今日からケーララ州だ、と誰かが言っている。ラリタは朝、夫から同じ話を聞いていた。マラヤーラム語を話す土地が、新しい州にまとまる。夫は嬉しそうに説明したが、鍋が吹きそうになり、最後まで聞けなかった。
祖母は別の土地から嫁いできた人だった。娘が祖母の言い方をまねると、夫は笑う。悪気のない笑いでも、祖母はその後しばらく口数が減った。ラリタも時々聞き返した。同じ言葉を使っていても、家の中でさえ、話す調子は違う。
「今日は一緒に食べましょう」
ラリタが声をかけると、祖母は鍋より先に床を見た。
「立つときに困るよ」
ラリタは低い木の腰掛けを縁側へ運んだ。娘は祖母の葉を持って、その前に置いた。葉の先は家族のほうを向いていた。
夫が戻った。白いムンドゥの裾に、通りの土がついている。州の話を始めかけて、縁側の祖母を見ると口を止めた。腰掛けに座る母へ、どこに自分の葉を置けばいいのか尋ねた。
「そこ。日が当たらないところ」
祖母は迷わず指をさした。夫はその場所に腰を下ろした。ラリタは祖母の米を少しやわらかくつぶし、椀から汁をかけた。娘はそれを見て、自分の米にも同じだけかけてほしがった。
「あなたのは自分で食べられるでしょう」
「おばあちゃんと同じにする」
祖母が笑った。ラリタは娘の葉にも少し汁を落とした。娘は勢いよく混ぜ、指の間から米をこぼした。夫が拾おうとすると、祖母が手を出した。
「食べている子の手を、せかすものじゃない」
今度は夫が笑った。自分も幼いころにそう言われたらしく、口の中の米を飲み込むまで何も言えなかった。
風が葉の端を揺らした。通りの声は遠くなり、鍋にはまだ米が残っていた。ラリタが祖母の葉へ手を伸ばすと、祖母は指を二本立てた。
「もう二口」
娘も隣で指を二本立てた。ラリタはどちらにも同じ大きさの米を置いた。
史実として確認できる部分
- インドのケーララ州は1956年11月1日に成立した。[1・2]
- 州の成立はインドの州再編に伴うもので、インド自体が独立した日ではない。[2]
- ケーララにはムンドゥ、ネーリヤトゥ、ブラウスを組み合わせる女性の伝統衣装がある。[3]