
1922年11月4日 ― ツタンカーメン墓へ続く最初の階段が見つかる
石の家の夕方
1922年11月4日、エジプトの王家の谷で、後にツタンカーメンの墓と分かる階段の上端が発見されました。土を運ぶ架空の労働者が、石で家を作る娘にその日のことを話します。
ここからは、架空の人物による歴史短編です。
ハサンは空の籠を持って坂を下りた。籠の縁に腕をぶつけると、朝から同じ場所を使っていた皮膚がひりついた。王家の谷で土を運ぶ仕事は、石が出ても砂が出ても、籠の重さで覚える。
その日は、掘っている場所の周りに人が集まった。地面の下から石の段が出たという。ハサンは少し離れたところにいた。作業を止めた仲間が、こちらへ来て、下へ続く階段らしいと教えた。
ハサンは背伸びをした。人の肩の向こうに、土と岩の境目が見えた。石の端はまっすぐだった。だが、そこに誰が眠っているかは見えるはずもない。仲間は籠を置き、何度も同じ場所を指さしていた。
家へ帰る道で、ハサンはその指を思い出した。いつもなら一日の仕事の話はしない。疲れていると、話すだけでも喉が渇く。今日は家に着く前に、娘へ何から話せばいいか考えていた。
娘は戸口で小石を並べていた。片方の列が長く、途中に隙間がある。ハサンが踏みそうになると、娘は両手を広げた。
「そこは道じゃない。家」
ハサンは大きくまたいだ。母親が奥で笑った。娘の作った家は毎日のように形を変え、夕方には戸口の前をふさいでしまう。
「今日は石の階段が出てきたよ」
娘は自分の小石から顔を上げた。
「誰が使う階段?」
ハサンは手を洗いながら、昔の墓へ下りるものかもしれないと話した。娘は古い人も階段から落ちたのかと尋ねた。ハサンは水を吹き出しそうになった。妻が椀を差し出し、娘には自分で考えてみなさいと言った。
娘はしばらく黙って、小石を拾った。長かった列を短くし、道を曲げ、家の中へ小さな段を作る。ハサンは敷居に座り、籠で赤くなった腕を伸ばした。
「お父さんも、そこを下りた?」
「今日は土を運んだ」
娘は口をとがらせた。階段の奥の話が聞きたかったらしい。ハサンも一瞬、明日は何があるだろうと思った。けれど娘の手元を見ると、段の上に丸い石が一つ載っていた。
「それは何?」
「座るところ。疲れるから」
ハサンは靴を脱いだ。娘が石の家の横に場所を空けてくれたので、戸口の床へ脚を伸ばす。妻がパンを持ってきた。ハサンが一片を取ると、娘も大きな一片に手を伸ばした。
「家を作るのも仕事だから」
ハサンは娘のパンを半分に割ろうとして、そのまま戻した。娘は両手で抱え、粉を頬につけながら食べた。空になった籠は壁に立てかけてあった。その影が娘の石の家まで伸び、家の半分を夕方の日から隠した。
史実として確認できる部分
- 1922年11月4日、カーターの発掘隊は王家の谷で墓へ続く階段の最上段を見いだした。[1・2・3]
- 封印された入口が現れるのは翌5日で、カーターが奥をのぞくのは11月26日だった。11月4日を宝物の全容を見た日として扱わない。[1・2]
- 発掘はラムセス6世墓の近くにあった古代の作業小屋の跡を取り除いて進められた。[1・2]